読了!海堂尊「螺鈿迷宮」(ネタバレなし)

まずサクッと粗筋を紹介する。

東城大学医学部の落ちこぼれ、天馬大吉は幼馴染みの新聞記者・別宮葉子から東城大学附属病院のサテライト病院・碧翠院桜宮病院への潜入調査を依頼される。この病院はホスピス、寺院までもを併設しており、終末期医療の先端として注目を浴びる一方でダークな噂も絶えなかった。大吉は看護ボランティアを志願し、碧翠院を訪れるが…

この碧翠院桜宮病院は家族経営である。父で桜宮病院院長の巌雄、母で碧翠院院長の華緒、双子の姉妹で桜宮病院院長と碧翠院副院長を務める小百合とすみれである。もう一人、二人の姉の葵がいたのだが…これ以上は完璧にネタバレになるのでやめよう。

今日やっと読み終わった。僕は海堂作品が好きで何作か読んでいるのだが、話の重さは多分1番だと思う。普段出てくる東城大学附属病院がライトな世界を表しているのに対し、本作の碧翠院桜宮病院の担当する世界は死である。院長の桜宮巌雄は延命治療に否定的であり、苦痛を緩和する医療を行なっている。生と死に対する絶対的に相容れない考え方である。それは昔は北の東城、南の桜宮とも言われたが、次第に衰えていこうとする桜宮病院にしか出来ない領域とも言えよう。

このタイトルの由来となった螺鈿の部屋の記述は非常に美しく、哀しかった。ここの部分だけを10回ぐらい繰り返して読んだ。あまりにも美しかった。死とはこれほど美しいものなのかと思い、吸い込まれそうになった。

螺鈿とは貝を削って装飾に利用するわけである。いささか乱暴な言い方をすれば、貝の死体。これを散りばめることで何とも言えない美しさが出てくる。この碧翠院桜宮病院もそうなのかもしれない。死が日常的にあるからこそ、一瞬の輝きをいまだに放っているとも言えるのではないだろうか。

今日1日はこれ読んだショックが強すぎて電池切れ。